『ヒューマン』胸像

みなさまご存知、ケイブンシャの大百科シリーズのベストセラー「全怪獣怪人大百科(58年度版)」を読みふけっていた小学生時代の私。リアルタイムで放送されているヒーローはそこそこに、過去の作品達の詳しい解説と悪役たちが一挙掲載されていたその一冊の中でひときわ異彩を放っていた、それが「突撃!ヒューマン!!」なのであります。言い方は悪いけれど「超絶ダサカッコイイ!」と子供心に興奮した記憶があります。1976年生まれの僕としては当然本放送は観ていないし、私の住む東海地区では再放送もなかったはず。

後年、福島のM1号・西村さんや青森県立美術館の工藤主幹を通じてこの作品の逸話(成田亨先生の話)をいくつか耳にすることになりますが、とにかく資料が少ないこと、当時の映像が殆ど存在しないことなどから「幻の作品」として日本昭和特撮史に刻まれおり、「知ろうとすればするほど手の届かない歯がゆさ」という点で唯一無二の作品と言えましょう。

今回のベースとなったおまんたワールド・高垣先生の「1/2ヒューマンマスク」の存在を知った時には衝撃が走りました。ヒューマンに対する想いをメールに込め、高垣先生にオーダー。届いた美しいシルエットのマスクをみて「これ、作るのもったいないな…」などと溜息をついている僕を見かねた榎本工房長が「首・胸・衣装をクラッチして胸像にしましょうよ」というまさかの提案が…。

以下は、その闘いの模様です

ハタナカ

以下 製作者enoによる解説

———————————————————————————————-

手練の成田亨ファンならご存知!のお茶の間ヒーローなんですが、同時にVTRが残っていない為に存在すら知らない人も少なくなく、立体化されること自体が奇跡といえるキャラクターでしょう。

ヒューマンがどれだけ刹那なキャラであることは上文でハタナカが語ってくれているとおりです。永遠のファム・ファタールです。

最初に2人でキットを眺めながら「これだけでも良いけど後頭部と首があったら面白いんじゃない?」って言ったのはどっちだったでしょう・・・。よくよく考えるととんでも無いことを言ったものです。1/2スケールですよ(上文では自分ということになっている)。
ですが「思いついたらやってみる」というよりむしろ「思いつくことは形に出来る!」ということで・・・・、はい、やりましたよ。
これは当工房のモットーでもあり最大の創作モチベーションでもあります。あのジェームズ・キャメロンも来日した際のアカデミーで同じようなことを言っていました。「実現したいことを事前に頭で描くことが出来れば必ず道は開ける」と。
まぁ、僕ら自身が「面白い」「あったら欲しい」っいてう物を造ってるだけ!でもあるんですけど、同時に共感して頂ける方の最小購買数が常に読めないのが玉に瑕です・・。

閑話休題

さて、立体化を試みた人なら共感して頂けると思いますが、ヒューマンに関しては確実明快な資料が本当に乏しいですね。[宇宙船]誌 vol.36 / 1987年6月号に詳細な画像資料が載っていますが、何より映像で動く姿が確認できないため、そのボリュームや三次元の膨らみを捉えるのが困難です。幸運にも数年前にプロップマスクを肉眼でゼロ距離鑑賞できる機会があったので(その時は立体物を仕上げるなんて夢にも思いませんでしたが)、その記憶を総動員して臨んでおります。我が工房が誇る伝家の宝刀「銀鏡メッキ仕上げ」も相まってマスクの質感再現に関してはかなり良い線までいっていると思います。
プロップの覗き穴部分はリーマーか何かでグリグリやったようなギザギザなものでしたが、さすがにそこまでは再現せずきれいな円を開口してあります。
何体かマスクは存在するようで、マスクの青いラインの幅にかなりの個体差があります。今回は宇宙船誌に載っている個体をトレースしました。
——-ちなみに頭を真上から見ると、塗り分けラインがウルトラマンの胸の柄になってるんですよ。豆知識です。
マスク以外のスーツ部分に関しては上記の宇宙船記事や少年雑誌(当時のぬりえやメンコなんかも)の資料をかき集めて精査、主にニューファンドと軽量ファンドでフルスクラッチしました。ここは合成皮革かな?ライクラ布でラインが伸びてるんだろうな?なんて考えながら、主に生地感の違いをテクスチャー彫りと塗りで表現しています。
こういったスケールモデルに現実感を与えるのに都合が良いのは、プロップスーツに仕込まれた電飾スイッチ等のガジェット(デッカード・ブラスターならON/OFFスイッチ、セブンなら耳のトグルスイッチ、ライダーならベルトのダイヤルとか)なんですが ヒューマンにはそれらしい物は見当たりません。耳の裏にある金属板はもちろん再現するとして、今回は襟足にあるファスナーもスクラッチしてみました。ちょうどいいサイズの既成品ファスナーを流用してもいいのですがモデラー的にはプラ版で自作!これに尽きます。見えにくいですが背中だけでなくマスクにも務歯(ジッパー部)をモールドとメッキ仕上げで再現してあります。
胸の紋章に関してはプロップが乳白色の半透明素材の様ですが、実物自体も形が明瞭では無い様です。形と彩色ともに成田亨氏のイラストを完全踏襲して心持ちエッジフルにしてあります。
ベースは敢えて温かみのある木製をチョイス。ウレタンを下地につや消しブラックで仕立ててみました。
「ベースは木製台座」というのはハタナカ&enoともに当工房の共通認識です。制作現場ではだいたい簡素な木製ベースにプロップを載せているものです。それは日米関係なく。ビハインドシーンなんかで塗料で汚れた木製の即席台座に撮影小道具がちょこんと乗っけられているをよく見ますね。堪まりませんです、はい。
台座裏には高級AV機器よろしくのアルミ削り出しインシュレーターで脚を付けてあります。これはゴム足よりも高級感があるので個人的にマイブームです。「オサレは脚元から」とはよく言ったものです。
しかしいつ見ても、これってどうやって視界キープしてんのかな?そもそも どうやって頭が入ってるん?ステンの叩き出しってそれ首折れるやろ….!と危惧しまうなんとも奇妙な形状のマスクですね。その引っ込んだ目窪を眺めているとゲシュタルト崩壊して小宇宙が見えてきます。ホントです。
当時 その尖り切ったデザインでピンと来なかったけど今は逆に新鮮、素直に受け入れられるぞ!って人もいるのではないでしょうか。僕もその一人です。
まぁそれこそが 成田ヒーローは永遠足り得る ということなのでしょう。

 
 
Materials: Resin, Plastic, Epoxy, Cray, Aluminum, Rubber, Wood,
Height: 310mm (Including Base)
Width:  300mm
Depth:  140mm
Weight: 1,800g