ゼネプロ製キット改修講座

下準備:ゼネプロキットの考察

経年によりすっかり黄ばんだゼネプロ製キット。大日本工房にはこれらがあと16セット半あります(2015.04現在)

経年によりすっかり黄ばんだゼネプロ製キット。大日本工房にはこれらがあと16セット半あります(2015.04現在)

ゼネプロ製鉄仮面、正式名称「ゼネラルプロダクツ製スケバン刑事II・鉄仮面バキュームフォームプラキット」。当時¥2000で販売されていたキットで、もちろん今では入手困難です。バキュームフォームという製法をご存じない方にはググって頂くとして、ここではこの伝説のキットの特徴と改修すべきポイントについてを解説します。

ゼネプロ広告

ゼネプロの当時の胸熱広告の一部。小学生だった私には刺激的すぎました(出典:ホビージャパン1987.01)

まず、バキュームフォーム(以下VF)ゆえの難点として[1.強度が乏しい][2.接合部分の処理が難しい]という二点を挙げることができます。普通にバリを除去して組んでも接合部の合いは悪く、何よりペラペラなので質感が全くありません。当然ですが「軽い作品」となってしまいます。鉄仮面はやっぱ「重み」がないといけません。

シルエットに関しては、「キットの原型がプロップからの複製ではない」という時点で、随所にプロップとの違いがあります。決定的なのは後頭部のラインで、その他の違いは小さなものばかりです(具体的な箇所と改修内容については後述)。ゼネプロ製キットの原型は、おそらく実物かB-CLUBの資料を基に「新規造型」したのだと考えられますが、とにかくよくできていると思います。当時の原型を担当された方は存じ上げませんし、それが一人だったのチームだったのかも不明です。国内の1級コレクターの某氏に言わせると「ゼネプロ製は所詮ゼネプロ製で、プロップとは違うんだよ」とコメントしておられましたが、私自身は「すごいなあ、よくやってるなあ」と感心しきりです。

かように、ゼネプロ製キットに敬意を表しつつ「あくまでゼネプロ製キットをベースにしてプロップレプリカを仕上げる」という命題の下、過酷な改修の旅へと出発したのです。

さあみなさんもこの記事を参考に、そのお手元のゼネプロ製キットを仕上げましょう。

下準備:資料収集

スケバン刑事II関連出版物・LD

大改修作業にはこれらが最低限必要

プロップレプリカを本気でやる場合、然るべき資料は必須です。「なんちゃって」程度や「こんなもんか」レベルでよければ資料などは不要で、脳内イメージだけを頼りに作業して構いません。私は、エンドスケルトンのプロップレプリカをそれこそ全身全霊を懸けて6年以上やり続けています。資料集めだけのために時間もお金もかかりました。鉄仮面の再現においてもそのスタンスは変わりません。

まず、劇中のイメージを頭に叩き込む(正確には「思い出す」)ために、DVD全巻揃え、「寝ても冷めてもスケバン刑事II」という生活を最低でも半年は続けました。ナメラの回で少年時代の恐怖を思い出したり、サキが初めて原宿でクレープを食す際に京子に放った萌え台詞で興奮したりと、鉄仮面以外の要素に惑わされつつも基本的には鉄仮面が登場するシーンを中心に繰り返し観ました。その際に、鉄仮面の細部に迫るようなシーンはキャプチャしておくことをお忘れなく。

次に、文献では何と言っても「B-CLUB第9号」でしょう。フルスクラッチする方にとってはまさにバイブル的存在で、逆にこれがないとフルスクラッチなど不可能だと思います。新規造型であろうゼネプロ製キットの原型も、おそらくこれを元に作られたとみられま

す。

この他では、レーザーディスクのジャケットがとても有用です。写真は精細で、しかもサイズがデカイのでディテールの検証に悩んだ際は迷わずこれらを参照しましょう。あと、意外にもフィギュアのパッケージ写真の鉄仮面がなかなか質感が良く出ていて、塗りの際の参考になるかと思います。「ビークラブスペシャルNo.5『スケバン刑事』研究」や「ビークラブスペシャルNo.6スケバン刑事II完本シナリオ集」などは、鉄仮面を再現するしないに関わらずスケバン刑事IIファンならば座右の書として数冊ずつはご用意下さい。

スケバン刑事II鉄仮面再現資料

これら資料が揃ったら検証・考察を重ねてメモを追記し、出力したものを常に傍らに置いて作業の参考とします。

改修工程01:裏打ち(補強)

シェルキャストゼネプロ製キット裏打ち

裏打ち前のキット(右)と裏打ち済み+バリ除去+表面サフ状態(左) /シェルキャスト

通常、補強のための裏打ちにはレジンやFRPを使用しますが、熱による変形や作業性を考えてある「新素材」を用いることとしました。竹林工業(タケシール)製・シェルキャストがそれです。「刷毛で塗れる樹脂」と形容されるように、中空パーツを製作する際に有用なこのシェルキャストですが、発熱が殆ど無いという点やFRPのような臭気やハンドリングの悪さが無いという点で目をつけました。

バリを除去する前に、キットの裏側にシェルキャストを塗り込みます(およその厚み約2mm~3mm)。そしてシェルキャスト完全硬化後、外周のバリから丁寧に除去していきます。

余談ですが、シェルキャストはおよそ24時間もあれば硬化してくれます。ただ、「完全硬化」となるとそれだけでは心許ないです。今回のように薄塗りの場合は、完全硬化前に脱型してしまうと盛大に反り返ります。ポイントとして、反りそうな箇所には極力厚めに塗り重ねることと、最低三日以上は脱型せずに寝かせることが挙げられます。高価なシェルキャストをケチってしまったせいで、0号機はキットのプラ板層ごと盛大に反り返ってしまい、結局はその分のシェルキャストと貴重なキットの片側を墓場行きにしてしまいました。

改修工程02:接合部段差の新造と整形

鉄仮面プロップ検証/段差

中央部より左右に分割される鉄仮面ですが、ゼネプロ製キットもこれを踏襲した2ピース構成となっています。しかし、その成型方法(VF)の特徴から分割ライン(端面)の再現度は甘く、エッジや境界線も曖昧でバリ部分なのか否かの判断もとても難しいところです。組み立て説明書にも「端面から数ミリ残す」的なことが書かれていますが、知識に乏しいとついつい深爪してしまう要注意部分です。大日本工房における今回の大改修作業においては、裏打ち済みのキットの端面にシェルキャストを厚めに盛って整形し、劇中プロップのような美しい分割ラインと、段差の延長を行っています。プロップには、向かって右側(サキ目線では左側)半分にこの段差が数ミリ存在することがこれら画像からおわかりかと思います。

スケバン刑事II/鉄仮面内側の段差検証

本編映像やB-CLUB資料でもはっきりと段差が確認できる(©和田慎二・白泉社・東映・フジテレビ/B-CLUB)

「段差」と表現するは、これは決して「仮面左半分にハマるための機構(爪)」なのではなく、正面から見た際の「仮面の溝」として機能するものだからです。ゼネプロ製キットの作例写真をみて「プロップと比べるとなんだか仮面全体の幅が狭くて面長」に感じるのはこの「段差」が表現されていないからに他ならず、今回の改修作例のようにこの段差部分を仮面右側の端面にグルリと新造して表現してやることで仮面全体に幅が生まれ、これによって正面から見た際に「プロップとほぼ同等」に近いシルエットとなってくれるのです。

鉄仮面プロップ再現/段差

また、この段差は鼻先部分では幅が顕著に拡大していて、左側の鼻先の内側に隠れ(ハマり)ます。左右を接合した場合の位置決めの役割を果たすと考えられることと、分割して単体で見た場合の重要な意匠であると考えてこちらも再現しています。「盛っては削る」の繰り返しを余儀なくされる箇所で、整形担当のeno氏も骨が折れる作業だと嘆いていた作業です。「言うは易し」なのですが、実作業する側からしてみればたまったもんじゃないですね。

ゼネプロ製鉄仮面改修/鼻の段差

改修工程03:眼とその周りのシルエット修正

ゼネプロ製キット改修/覗き穴

改修前状態は覗き穴部がやや小さく、また周囲の極端なエッジも気になる

ゼネプロ製キットの眼、つまり「覗き穴」部分は、プロップに比べるとやや小ぶりです。くり抜いてある形状そのものやその周囲のラインも鉄仮面全体の 「表情」を左右する大事なポイントと考え、鼻筋(後述)と同様にプロップ資料を参考に修正・整形しています。ちなみに作業担当のeno氏は、ここの作業中に幾度も 「うん美しい・・・」だとか「おお、なんて女性的・・・」と呟いては恍惚の表情を浮かべていました。大日本工房の構成員としての必須条件である「変態性」 について、私と並んで彼もかなりいいものを持っていることがわかります。

改修工程04:パネルラインの修正

VF成型であるゆえに、ゼネプロ製キットはパネルライン(スジ彫り)が浅く、またエッジもかなり甘くなっています。

鉄仮面プロップ/パネルライン修正

ほんの気持ち程度しか存在しないキットのパネルラインを改修。破綻しているリベットモールドも一旦除去してパテ埋め

具体的な作業としては、シェルキャストで裏打ち済みキットのパネルラインを一旦平滑にし、なおかつタガネを用いてシェルキャスト層ごと彫り込んでプロップ同様の幅とエッジを再現しています。

鉄仮面プロップ/パネルラインの検証

プロップ画像:ラインの深さ・幅・エッジの様子やラインの微妙な破綻(出典:「スケバン刑事」研究)

当作戦の実行部隊・eno氏曰く 「0.7mmのカスタムタガネでやさしく、そう、撫でるようにやさしく且つ根気強く彫り込むと、プロップとほぼ同等のシルエットが見事に現出する」のだそうです。プロップ画像を見て頂くとお分かりでしょうが、このラインは決して美しい直線ではなく「少し破綻したライン」を描いています。この破綻したラインは設定上の「鉄製らしさ」と見ることもできるし、 手作りによる「プロップの風合い」とも捉えることのできる重要な部分で、大日本工房としてはかなり強い信念をもって工作した箇所なのであります。

改修工程05:耳部分のシルエット修正

ゼネプロ鉄仮面キット/耳の改修

苦心の末に整形するも、裏打ち層まで達するため気泡埋め禍に苛まれる

やたらブ厚く、しかもラウンド形状。さらに後方に迫り出しているゼネプロ製キットの耳部分。プロップ資料を参考に、極力近い線まで整形していきます。地道に手ヤスリでボリュームを減らしていくのもいいですが、ここはサンダーなどの電動工具でガシガシ一気に削り取りましょう(もちろんシェルキャスト層まで削り込むことになるので、この後には写経の如き気泡埋めと表面処理が待っております。楽しいですね)。ちなみに、プロップにあるはずの耳当て部品のモールドはキットではオミットされていて、新造する必要(詳細後述)があるためできるだけ平面を出すことにも注力しました[eno]

改修工程06:リベットの打ち替え

鉄仮面の意匠面での重要なファクターの一つ「鋲(リベット)」についてもプロップを細かく考察して再現しています。B-CLUBやその他文献で「真鍮製」との表記があるので材質はそれに間違いないのでしょうが、いかんせんプロップに使用されているリベットそのものの特定には至っておりません。直径や盛り上がり具合はおおよそ数値的に特定できましたが、それに見合う既製品がどこを探しても見当たらなかったのです。現在のところ、形状が近いと思われる「アルミ製又割りリベット」と「真鍮丸頭釘」の二種を試しています。どなたか、情報をお持ちでしたら是非ご一報頂きたい部分です。

スケバン刑事II/鉄仮面のリベット

リベット候補あれこれ。どなたか真相を教えて下さい。大日本工房からの切なる願い。

このリベットの数や位置・塗装の剥がれや浮き具合についても本編映像や文献を参考に再現していますが、個体や撮影時期によって様々に違いがあるので、製作テーマごとにそれら違いを再現し分けております。

ゼネプロキットとプロップのリベット比較

バキュームフォーム成形の限界とプロップの神々しい手打ちリベット群

リベット群が一体成型となっているゼネプロ製キットでは、当然ながら各リベットに「独立感」はなく、また形状・高さにもバラつきがあります。このため仮面全体に裏打ち処理を施した後、まず全てのリベット部分のモールドを削り落としてパテ埋めし、一旦は完全にフラットな状態にしています。

ゼネプロ鉄仮面のリベット打ち替え

静かにその時を待つサフ吹状態と、変態的下穴用マーキングの図

そしてプロップと同様に、ここから各部分に孔開け(下穴開け)を施し、一箇所ずつリベットを打ち込んでいます。その際、本編映像を参考にズレや浮きなども再現し、場合によってはリベットが外れてしまって下穴が露出している表現も行っています。

またプロップには左右接合の為(おそらくマジックテープ・ベルトの固定用)なのか、うなじ付近に6本のネジが留まっております。本来6なのですが、1個外れてトータル5です。
流用の効くプラスネジですので、ホームセンターでも簡単に見つけられます。
アゴ裏にも左右非対称の5個の穴が開いており、内1個に接合プレートが留まっている、という感じです。
なお、部分的にブルーイング液で黒染めした鋲も使用しております。真鍮はバーチウッド社のアルミブラックの原液で一気に染めましょう。

改修工程07:鼻筋のシルエット修正

ゼネプロ製鉄仮面キット/鼻筋

ゼネプロのガッシリとした鼻筋をプロップ同様にキュッとさせています。

よく言えば「ゼネプロ製キットの個性」、悪く言えば「プロップとの決定的な違い」と表現できるのが鼻筋です。ゼネプロ製キットはボリュームや存在感が大きすぎて、プロップのあの「女性的」な柔和な表情が出ていません(鼻がゴツいせいでゼネプロ製キットはむしろ「男っぽい」んですよね)。逆に言うと、この鼻筋をうまく処理してやればグッとプロップに近い表情になります。この部分は、キットのプラ板層もろとも削り込んで、裏打ちのシェルキャスト層にまで達する整形作業になっています。

改修工程08:口(格子)部分のシルエット修正

ゼネプロ製鉄仮面/口の形状

ゼネプロ製キット(左上)の過剰な迫り出しをプロップに準じてシェイプアップ

口の格子部分は、極端に迫り出しているキットの上端エッジ(鼻先)を削りとり、高さも1.5mmほど削ぎ落としたでしょうか。全体的にシェイプアップしている感じなんですが、とくにアゴにかけての窄まり感と言うんでしょうか、プロップに見受けられる独特な「クビレ」を再現しております。

また口角部分もキットは過剰にエッジが立っているので、柔らかいラウンド形状にしております。ちょうどオバQの口角をご想像頂けるとわかりやすいですね(非・西川のりお版)。
 各格子そのものも、キットはやたら角張っているためプロップ同様に自然なアール形状に修正しています。

改修工程09:耳部分の板部品の新造

ゼネプロ鉄仮面/耳あて

形状を割り出したらこのように「型紙」を作っておくと何かと便利

当初2mm厚、もしくは1.5mm厚のプラ版で攻め込んでいた部分ですが、最終的には「1.2mmがしっくりかな」という感じです(キットそのままの耳厚でいくなら、バランス的に迷わず2mm厚です)。先述の通り、耳部分は削りで形状変更しているので、微妙なアールに合わせプラ版をヒートガンなどで湾曲させる必要もあります。隙間なくしっくりキマった場合の高揚感はタマりません。接着の際は、接着面の塗装や汚れを剥いでおくことを忘れずに。
ここってゴム板の設定かなぁ?なんて思いながら試行錯誤していっても面白いですよね。大日本工房的妄想では「本体と同素材の金属のプレートという設定」と踏んでいますので、本体と同色で仕上げてあります。[eno]

改修工程10:表面処理

ゼネプロ鉄仮面の表面処理

裏側にはシェルキャスト、表面もプラパテでコーティングの安心仕様

「表面処理」と言っても、当工房改修個体は裏表ともキット本来の素地はほとんど露出しておりません。そう、文字通りの「大改修工事」です(意識せずにやってましたが、改めて考えるとかなりの変態仕様です)。

パネルラインの彫り込み、リベット削ぎ落とし~プロップ準拠位置への再開孔を行うため、シェルキャスト、ポリパテ、プラパテなどの樹脂が0.4~0.6mm厚ほど乗っかっています。このようなハイブリット構造が、質感だけでなく、しっとりとした肌触りや持った時の重厚感に一役買っているのは言うまでもありません。プロップも、撮影毎に破損箇所をパテ等で補修していたであろうことは容易に想像でき、工程を同じにしていけば、自然にプロップの質感・風合いを再現できる・・・」という分析に基づく工作です。
本体部分は溶きパテを全体にまぶし、プラパテで所々ハンドメイドな凹凸をスクラッチしております。網目のように見えるディテールがプロップに見受けられますので、厚く塗ったパテが乾くまでに金属スポンジなどを当てて再現したりしております。
またリベット用の下穴を開ける際、わざと貫通時にドリルごと叩きこんで穴の外周に一回り大きいドリルチャック跡を刻んだりもしております。これによりいかにも「リベットを打ち込んだ」という表現ができている、かどうかは施工した本人の満足の部分なんですがw、とにかくこうした自己満要素の吹き溜まりが、作品に独自の変態オーラを宿すことを僕は確信しています。
耳部分と格子部分も、ゼネプロ層を通り越して裏地のシェルキャスト層まで削りこんでいるので、こちらも「露出無し」となるわけです(むしろ脱がせてますね、実にイヤラシイ)。
なお格子部分の表面処理としては、光沢感の極限追求としてウレタンコートを施工したテスト個体もありますが、プロップというより「品のよいレプリカ色」が強くなってしまうのでおススメしません。漢なら「ラッカー3層コートに水研ぎ」でしょうか。このあたりは “神は細部に宿る”、を心に念じ続けてやるのみです。[eno]

改修工程11:ペイント~本体部分~

[せっかく各部をプロップに準拠して改修しても、塗りでミスをすればゲームオーバーです。絵画でも造形でも結局ここにかかってきます。というわけでここから工程12までは、我が大日本工房が誇る “塗りの魔術師” eno氏にジックリと解説してもらいます]

色味・質感の再現といっても、少なくとも4種存在したと言われる劇中プロップは全て仕上げが違うでしょうし、予告編やタイトルでのチラリ、間接照明下のサキ部屋、はたまた野外格闘シーンなどに加え、それこそ現像や編集の加減によって千差のバラ付きがあります。決定版と思えるB-CLUB第9号の特集記事も極端に綺麗に撮られ過ぎていて、せっかくの色もテクスチャーも飛んでしまっており、ほぼ「ガンメタ一色」。何ら参考になりません。最終的に方向性を示してくれたのは、DVDからの高解像度キャプチャ画像です。

大日本工房/eno

壁面に張られた映像資料の出力と、それらを前にして物思いに耽る工房長eno氏

事前にハタナカ氏から「大日本工房としての一発目の作品は鉄仮面でいくよ」との通達があったため、工房勤務初日にはそれらのカラー出力を作業机の横壁一面に貼って連日頭に刷り込みました。その他ではレコードのインナー写真やLDジャケットにも大いに助けられました。以下からは各パートごとのペイント解説となります。
まずは本体色。考察に考察を重ねましたが、行き着いたサキ(もとい先)は、「つや消し黒」です。ですが、この「つや消し黒」ほど照明や日光で色味が変わるカラーはありません・・。奥が深く、もはや底なし沼です。

スケバン刑事II・鉄仮面本体色考察

ライティングや環境により様々な表情をみせる鉄仮面の色

元来プロップなんてものは、実物はたいがい単色だったりします。まして映画でもないケツカッチンのテレビドラマ製作では、撮影毎のリタッチを考えれば基本色以外の特別カラーを使用することは考えにくいでしょう。関連書籍では「黒鉄色」としか綴られていません(唯一の手助けは、「緑や茶色で味付けがされている」という記述のみ)。日光下ロケでのプロップは、程よくグロスなグレイ、もしくは青の様にも観てとれます。ですが、いざサキの部屋に行けばマットな真っ黒です。

であれば、どっちにも見えるように!を狙おうではないですか。

具体的な手順です。まずは溶きパテを豪快に筆で塗りこみ下地造り。同時にテクスチャーもつけていきます(特にアクション用の個体は、表面に分かりやすく特徴的な波打つ凹凸があるのでぜひ参考にしましょう)。

スケバン刑事II/鉄仮面の塗装

半つやブラックの後、シルバー粒子多めのガンメタで下地。その上にクリヤーブルー・クリヤーグリーン・クリヤーブラックをまだらに吹いていきます。ここで一回ツヤ消しクリヤーで整えてます(以上はラッカー塗料使用)。

次にエナメルのフラットブラックや、フラットアースを全体にスポンジで叩き込み、部分的にアクリルやオイルステイン系塗料で赤茶系を乗せていきます(液体というより、粉っぽさを念頭に置くと調整しやすいと思います)。繋ぎ目などに、黒、茶、グリーンなんかを落とすと、いかにも「経年の金属!」となります。

あくまで「鉄」仮面ということを念頭に、重厚感と威圧感をキープです。[eno]

改修工程12:ペイント~格子・耳部分~

この2パートは同色です(エンディングの蟹江敬三氏の横に並ぶプロップを見ると、明らかに自動車ボディばりのクリヤー光沢を放っております)。耳も格子もゼネプロ製キットから原型を留めないほどにスクラッチしているので、シェルキャスト+パテの素地を鏡面までただひたすら磨き込む事になります。ご愁傷様です。

スケバン刑事II/鉄仮面の塗装

ここの下地造り工程は、
クリヤー・サフ・クリヤー・研ぎ出し・クリヤー・ガイアノーツのサーフェイサー黒・クリヤーブラック・クリヤー・研ぎ出し

の順です。いかに「艶ありの黒」を実現するかがカギです。

仕上げはメッキシルバーNEXTや、スーパーメタリック・ファインシルバーを基本にして、味付けにポリカーボネート塗料のブライトシルバーの粒子だけを使用したりしています。メッキシルバーNEXTだけだと仕上がりがエグ過ぎるので、クリヤーをコートしてギラツキを抑えます。ラストは研ぎ出し、コンパウンド研磨で終了です。

スケバン刑事II/鉄仮面の鋲

リベット部は、全ての箇所に打ち込んでから軽くプライマーを乗せてますが、基本、本体と同時に塗っちゃいます。あとは、接地していかにもカスれそうなところを綿棒で拭きとって、真鍮の地を露出させます(劇中、終盤の格闘シーンでは、80%以上のリベットが剥げているものもあります)。

どこが剥がれるのか、テストショットで本当に落下させてチェックしました。一回顎が割れたことは、他の構成員たちには誰にも言っていませんが。

改修工程13:汚し・質感・損傷表現

基本工作と概念まとめ

・接合面の段差を新造
キットでは「有って無い」ような接合面の段差モールドを新造。これがあるとないのとでは完成時の見栄えが全く異なります。

・リベットの「位置関係」と「浮き」を再現
本編映像や資料を注意深く観察すると、リベットの微妙な「ズレ」や「浮き」を発見することができます。大日本工房での改修作業においては、これらプロップの特徴をできる限り再現しています。また、本編終盤(40話前後)に見られる塗装の剥げによる真鍮地肌の露出についても表現しています。

・本体の表面の「荒れ」の表現
表面処理の項目でも触れましたが、意図したものなのか否かはわかりませんがプロップの表面はかなり荒れ模様です。レタッチの連続によるものなのか、はたまた「鉄」の質感を表現するための当時の制作班の造作なのかは定かではありませんが、とにかくあの「荒れ」こそが鉄仮面のアイデンティティのひとつであると考え、当工房でもこれを再現しています。

・格子の艶
B-CLUBでも言及されていますが、とにかく格子部分は意図的に艶々の仕様で、本体の肌荒れ具合とは好対照といえます。改修作業でもこの部分を常に念頭に置いております。あらゆる工程(表面処理~ペイント~仕上げ)に関わってくる部分ですので全く気が抜けません。

・全体的な汚し
B-CLUB第9号によると「鉄仮面の色は地が黒鉄色のような色で、緑と茶で部分的に汚しがかけてある」とあります。ペイント責任者のeno氏は終止「茶はわかる。本編映像からも確認可能。でも緑がどこに使われているか特定できない・・・」としばらく苦悩していました。B-CLUBの写真はライティングばっちりで撮られていて、eno氏曰く「あらゆる部分のディテールや色味が飛んでしまっており、殊『塗り』に関してB-CLUB第9号はあまり参考にならない、というかしてはいけない」とのこと。「黒鉄色や茶や緑という言葉は一旦忘れて、LDジャケットや本編映像を元に勘を頼りに調色し、重ねていくのみ」とも。おそらく鉄仮面を塗らせたら現段階ではeno氏が暫定世界一なのではないかと思います。

参考個体別の特殊表現

ver.1.1:本編第1クール頃の「サキ部屋展示仕様」

主な特徴
・ダメージが少ない
・表面のレタッチが少ない
・格子部分の艶が鮮やか
・サキ部屋ライティング下の特徴的な色味

解説
「クランクイン直後、まだまだダメージが少ないプロップ」をモチーフにしたのがこのver.1.1です。大日本工房としての記念すべきeno/ハタナカ共作第一号でもあります。「リベットの塗装が剥げて真鍮地が露出している表現」は控えめです。物足りなそうなeno氏に「2号機の恭志郎戦バージョンで思い切りやればいいから」と説得したことが思い出されます。表面への溶きパテ塗り込みによる「肌荒れ表現」に関しても控えめで、とにかく「サキの部屋に佇むあの個体」のイメージを優先しています。本体色も、実物のつや消し黒よりも「鉄の質感」を重視した色味を再現しています。この作品を見て「ペイントによる金属の劣化表現に関してはeno氏には敵わん」と完全に白旗状態の私なのでありました。

なおプロップの機構については「マグネット固定説」を強く推す私の希望で、本体裏面の二箇所に磁石を固定しています。もちろん、内側のパッドや顎裏のビスと接合プレート、後頭部のマジックテープ基部固定用ビスなども再現しております。ただし、分離・合体の邪魔になるためマジックテープとビス用金具の一部は採用していません。

ちなみに、ゼネプロ製キットのサイズが南野陽子モデルを元としていることと、強度を考えて裏打ちを厚めにしていることから成人男性はまず被れません。女性でもキツイし、あちこち当たって痛いと思います。子供なら被れるでしょうが、くれぐれも女児に被らせるのだけは冗談でもやめてください。五代陽子の悲運をジョークやパロディにすべきではありません。

ver.1.2:第40話「恭志郎戦仕様」

主な特徴
・ダメージが多い
・表面のレタッチ痕が多数
・額の割れ
・リベットの欠落
・屋外ロケ時の特徴的な色味

スケバン刑事 鉄仮面

©和田慎二・白泉社・東映・フジテレビ

解説
志織v.s.恭志郎の「運命の決闘」の傍らに置かれていた個体を再現しました。わかりやすい部分では額部分のクラック(割れ)とリベット欠落の表現です。クラックの深さや角度は検証に検証を重ねてeno氏が完全再現。細かい部分では表面のおびただしいレタッチ痕と塗装が剥げて真鍮地が盛大に露出してしまっているリベット群です。額の擦過痕も見逃していません。実はこのあたりはやってもやってもキリがなく、ある所でブレーキをかける必要があります。私とeno氏は「所詮ベースはゼネプロ製キットであるからして、どれだけ頑張ってもプロップには敵わない。仮にプロップを入手して複製しても、結局はプロップの完全コピーにはならない。そう、唯一無二だからこそのプロップであり、それが神々しさの秘訣なのである」という合言葉を唱えて様々なジレンマの処方箋にしていました。プロップの神々しさを求めて日々闘っているのですが「無理なものは無理」と時には割り切らないと気がどうにかなってしまいます。

プロップの内部機構群の再現はver.1.1と同様マジックテープと金具の一部を覗いて再現しています。マグネットによるパカ・ガコンという分離合体音は、おそらくプロップも同じ音色だったことでしょう。私はそう確信しています。

ver.1.3:宣材スチール「ダメージ仕様」

ゼネプロ製鉄仮面キット/プロップレプリカ


主な特徴
・問答無用の錆び表現と損傷表現
・リベットの欠落
・岩場撮影時の特徴的な色味

解説
「ビークラブスペシャルNo.6スケバン刑事II完本シナリオ集」の表紙やレーザーディスクのvol.02/vol.03のジャケット写真でおなじみのあのダメージ個体を再現しました。本編には登場しないこの個体、独特の汚しペイント・リベット欠落・格子の損壊が最たる特徴で「エイジング加工の達人」であるeno氏が嬉々として取り組んだのがこの一体です。経年劣化・錆び・土埃・損壊・損傷のオンパレードのこの個体は今どこにあって、誰が所有しているのでしょうか。近々この個体を携えて岩場のある場所へ赴き、昼と夜で場所とライティングを変えて撮影しようと思っています。ですので、あのLDジャケットの撮影地をご存知の方、ぜひ情報をお寄せ下さい。

改修工程14:プロップの内部構造再現

B-CLUB鉄仮面プロップ検証

出典:バンダイB-CLUB第9号

鉄仮面といえば何といってもあの「パカっ」となる左右分割構造です(あるインタビューで南野さんは「私のは前後分割だった」という衝撃発言をされました。恐ろしい新発見です。当工房もVer3.5くらいで前後分割を完全再現するでしょうが、とりあえず今はひとまず左右分割です)。

資料や証言では「マジックテープ+ビス留め」というのが有名ですが、私はB-CLUBの内部写真を見ていて、少年時代からどうしても気になる部分がありました。ヒタイ上と後頭部分に、ちょうど漢字の二の様な2.5センチほどの線が見えます。柔軟な頭の人は気づくでしょう。そう、磁石です。家具やテレビ台の扉部分に付いてるあのマグネットですね。私にはそれにしか見えない。

本編映像では、ピシャリと固定されている鉄仮面をいとも簡単に分割するシーンや、割れている鉄仮面をこれまた簡単にピシャリと固定してしまうシーンがあります。被るシーンにおいてはマジックテープ留めであることは頷けますが、こうした鉄仮面単体の「分割・合体シーン」ではマジックテープは有り得ません。ビス留めに至っては「アクションシーンで外れることを防ぐため」の手段です。

スケバン刑事II/鉄仮面/マグネット固定説

第12話Bパートの一場面。マグネット固定説を裏付けるアクション(©和田慎二・白泉社・東映・フジテレビ)

この仮説を裏付けるべく、まず試しに資材屋を回って形状・サイズが酷似したマグネットを入手しました。そしてそれをテスト個体にB-CLUB写真の位置へ接着固定。そして左右を合わせてみると・・・・、ドンピシャでした。小気味よいクリック音とともに合体・分割が可能になります(衝撃の実証動画参照)。この「バチン」というか「ガコン」という合体音、劇中で聞き覚えがありますね。鉄仮面内側に反響するようなあの音。もしかしたらドラマ本編では別の効果音をアフレコしているのかもしれませんが、これこそが鉄仮面の合体音なのだと信じて疑わない私はこの「マグネット固定方式」でほぼ間違いないと確信しています(間違っていたら教えてください、当時の関係者のどなたか)。

B-CLUB鉄仮面プロップ検証

出典:バンダイB-CLUB第9号

また資料を眺め続けるとアゴ裏にちらりと金属板らしきモノが見えてきます。決して気のせいではありません。そう、「接合プレート」です。撮影中(特に鉄仮面着用戦闘シーン)に開いたりしない様に左右をシッカリ繋ぐには、やはり物理的結合も必要なのですね。発見してしまったからにはもちろんそれも再現しております。実物はおそらく既成品のステーの類ではなくアルミ板や亜鉛板の端材を適当に切り出した物のようです。当工房でもこれに倣い、そこらに転がっていた端材板から1個1個削り出しています。

ゼネプロ製鉄仮面/スケバン刑事II

B-CLUB掲載の内側写真をさらに眺めると、内部に何やら台形の黒い物体が貼り付けられているが見えます。これは勘の悪い方でも分かりますね、クッション材です。解説にはスポンジを黒い布で巻いたもの、とあります。であれば実際にスポンジを布で巻きましょう。当工房ではウレタン緩衝材と、液体洗剤に漬け込み少しヨレさせたHanes黒シャツを使用しております。

ところでなぜクッションが丸で無く台形の様な角ばった形状なのか、実際ゴニョゴニョやってみてわかりました。ラウンド形状ではうまくスポンジを包めないんですね。こうして生活の知恵をつけながら鉄仮面の仕上げは終局を迎えていくのです

しかしながら実際にマグネットや結合プレート、およびウレタンを貼ってみると、過不足無い絶妙な位置に付いている事がわかります。きっと当時の現場で試行錯誤を重ねた結果なのでしょう。映画小道具人の当時の心境とシンクロし、時空を超えて映像作品と一体化出来る点では、こうしたプロップ徹底考察および徹底再現は、究極の嗜みと言えるかもしれません。撮影現場に忍び込んでいる様な、このなんともいえない高揚感。このサイトでその片鱗を味わって頂ければ幸甚の極みです。

とはいいながらも、既に4号機を工作している現在、スジ彫りタガネ(0.7mm)を放り出して大須の街に消えたくなる時があるのはここだけの話です。

あとがき:~そして、スタンドへ~

「ゼネプロ製キットをベースとしたプロップ再現」がゴールではありません。「それをあの白い鉄仮面スタンドに飾る」ことが終着駅なのです。そう、「『ただいま』を言うまでが遠足」、つまりそういうことです。サキの部屋にあった鉄仮面スタンドの完全再現に関する解説は別項に譲りますが、まずはver.1.1をスタンドに乗せた姿をご覧下さい。

鉄仮面スタンド

鉄仮面スタンドの検証・考察・再現に関する詳しい内容はこちらをご覧下さい。