成田亨『MANの立像』レプリカ製作

はじめに

初代ウルトラマンの放映終了後10年の時を経て製作された『MANの立像』は、ウルトラマンほか特徴的な怪獣たちをデザインした成田亨氏本人の手による彫刻です。当時のとあるイベントにて販売されたレプリカキットは製造数自体が少なく、現在では入手困難となっています(プレミア価格はおよそ50倍とも言われています)。今回は、大日本工房主宰・ハタナカマコトが20年に渡って地道に収集した当時の貴重なキットから1セットをチョイス・使用し、青森県立美術館に常設展示されている作品を参考に「完全レプリカ」を目指して取り組みました。

以下に、キットの特徴や製作工程についてご紹介していきます。

成田亨 MANの立像 マンの立像 青森県立美術館 円谷プロ 初代ウルトラマン

当時「宇宙船」にひっそりと掲載されていたキットの広告。

成田亨 MANの立像 マンの立像 青森県立美術館 円谷プロ 初代ウルトラマン

複数所蔵しているキットのうち、成田亨氏の直筆サインが入った外箱つき完品はたった1セットです。当時の空気を感じ、魂が震えます。

成田亨 MANの立像 マンの立像 青森県立美術館 円谷プロ 初代ウルトラマン

もっとも保存状態がよかったこの完品を、今回の作例のために大胆に開封・使用しました。

成田亨 MANの立像 マンの立像 青森県立美術館 円谷プロ 初代ウルトラマン

このようなパーツ構成となっています。経年により強固に歪んでしまった部品は熱湯で煮込んで形状を戻し、即座にレジンを流し込んで形状を保持しています。

成田亨 MANの立像 マンの立像 青森県立美術館 円谷プロ 初代ウルトラマン

貴重なキットゆえ、このように削り取ったバリさえも捨てるに捨てられないのです。当時の空気と共に、内袋へと静かに封じ込めます。

成田亨 MANの立像 マンの立像 青森県立美術館 円谷プロ 初代ウルトラマン

完成後の半永久保存・展示のためにも各パーツ同士の合わせ目をしっかりと補強する必要があります。胴体部分にはこのように太めの真鍮パイプを差し込んでいます。

成田亨 MANの立像 マンの立像 青森県立美術館 円谷プロ 初代ウルトラマン

全てのパーツ接着の後、各接合部分を丁寧に処理しています。パテによる接合部の隙間埋め・整形段階では、成田先生が彫り込んだテクスチャを侵さぬよう最新の注意を払っています。画像はサフ吹まで終えた段階の立像。

成田亨 MANの立像 マンの立像 青森県立美術館 円谷プロ 初代ウルトラマン

実物の立像は「樹脂に成田氏自身がペイントした」と言われています。ただ、そのブロンズ風の色味を再現するために大日本工房ではここから特殊な工程を踏みます。これはウレタンのグロスブラックを吹き終えたところ。

成田亨 MANの立像 マンの立像 青森県立美術館 円谷プロ 初代ウルトラマン

大日本工房が所有する自慢の設備「銀鏡塗装」を行う前段階として、入念な水洗いを行います。「ガレージキットに水をぶっ掛ける」という、他に例をみないこの工程こそが銀鏡の特徴的な工程です。

成田亨 MANの立像 マンの立像 青森県立美術館 円谷プロ 初代ウルトラマン

複数の薬剤をシビアなレシピに基づいて段階的に塗布していくと、このように鮮やかな金属皮膜が形成されます。皮膜は極薄なので、「成田先生の彫刻を埋めてしまう」という悲劇とは無縁です。

成田亨 MANの立像 マンの立像 青森県立美術館 円谷プロ 初代ウルトラマン

さらにクリアのウレタンコートを施し、80度の炉で強制乾燥を行います。この焼き込み工程も、銀鏡塗装ならでは。ちなみにこの大型乾燥炉は福島のとある工場からの払い下げ品で、巨匠・円谷英二氏の故郷でもあることから少なからず縁を感じます。

成田亨 MANの立像 マンの立像 青森県立美術館 円谷プロ 初代ウルトラマン

コッパー色を施された立像の様子。動画でもコメントしている通り、「このまま飾ってしまいたくなる」くらいの趣深い風合いです。レジンの内部充填によるずっしりとしたその重量と相まって、元がソフビとは到底思えません。

成田亨 MANの立像 マンの立像 青森県立美術館 円谷プロ 初代ウルトラマン

大日本工房が誇る名フィニッシャー・eno氏の手による仕上げ工程の様子。本人による解説は以下より。

ペイント解説

私はウルトラマンと訊かれても世代的には直接的な恩恵を与っておらず、おなじ「帰りマン」でもGAINAXの庵野版を思い描いてしまうほどで、実際に私は普段もっぱら海外SFX専門のフィニッシャーとして「日本特撮とは離れた場所」で活動しております。歴史ある日本特撮に気軽に立ち入っては行けない、とも心得ているつもりです。 ですが、数年前に富山にて行われた展覧会「成田亨 怪獣ウルトラマン創造の原点」にて彼の作品を見るにつけ、怪獣デザイナーとしてではなく前衛芸術家としての成田亨という存在に大いに感銘を受けました。 展覧会場の一番奥のブースに飾られていたのが、この「マンの立像」です。 正確にはセブンとヒューマンとの三つ巴で置かれていたそのブロンズ像。荒々しくプリミティブな肢体にすっかり魅了され、数時間は滞在していたでしょうか、しっかりとこの目に焼付けた次第です。 まさか数年後にその作品のレプリカの仕上げを担当することになるとは。人生は点と点で繋がる数奇な瞬間があるものなのですね。貴重なレプリカのキットになかなか手をつけられずにいた当工房主宰のハタナカが一念発起して着手しようとしている一大プロジェクト、全身全霊で挑ませて頂きました。

仕上げのポイントは、ソフビ製素体をいかに「実物同様の金属調」に見せるか、この一点であります。 調査によると、実物の立像は樹脂製で、成田氏ご本人がペイントまで施したとか。ただ、実物を見た私からすると「重厚な金属質感」が確かに存在していたと信じて疑いません。硬質かつ分厚いコーティングを施せば触感とも変貌させることは容易いのですが、この作品に於いては成田氏の彫り込んだテクスチャこそが命であります。ウレタンを粉吹きにして極薄の下地を造り、銀の皮膜で覆った後、それを閉じ込める為にさらにウレタンコート。その後いったんブロンズ調カラーで仕上げております。全てにおいて最小限の薄さで、を心がけながら行っております。その上から酸化膜を意識した暗めの塗料で味付けし、銅特有の青サビまで再現しております(私個人は毎年静岡にロダンの作品を観に行っていることもあり、鋳造表現には少々ウルサイのです) 。金属が経年で変化した工程をそのまま塗装で行った というのが今回のウリで、その再現度は削り込めば実際に金属の膜が現れる、といった具合です。「成田亨作品を取り戻せた」というのは言いすぎかもしれませんが、写真や動画では伝わり切れないほどの重厚なオーラを纏っております。ぜひ機会があれば肌で感じ取って頂きたい仕上がりです。

[大日本工房・工房長eno]

成田亨 MANの立像 マンの立像 青森県立美術館 円谷プロ 初代ウルトラマン

かくして完成をみた大日本工房謹製のレプリカ。シルエット・色相・質感・重量すべてにおいて実物を踏襲しています。元はガレージキットの様相であっても、これはもはや「芸術作品」以外の何物でもありません。

最後に

2015年にテレビ東京で放送された『美の巨人たち』でこの立像を知った向きも多いのではないでしょうか。あの放送では、この立像にスポットを当てつつ、成田亨という芸術家の素顔が紹介されていて、今でも当時のVTRを繰り返し見ています。 もしまだご覧になっていないという方はぜひこちらをご覧下さい。そして、その後に、我が工房が完成させたレプリカの写真群をご覧頂き、あの神々しさをどこまで再現できているかについて皆様にご評価頂ければと思います。

[大日本工房・主宰 ハタナカマコト]